大阪地方裁判所 昭和63年(ワ)8700号 判決 1989年1月17日
反訴原告
森義則
反訴被告
片山製袋株式会社
ほか一名
主文
一 反訴被告らは各自、反訴原告に対し、金六〇万〇四〇〇円及びこれに対する昭和六二年七月二二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 反訴原告のその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用はこれを八分し、その七を反訴原告の負担とし、その余を反訴被告らの負担とする。
四 この判決は反訴原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 反訴被告らは各自、反訴原告に対し、金四六〇万円及びこれに対する昭和六二年七月二二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は反訴被告らの負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 反訴原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は反訴原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 交通事故の発生
次のとおりの交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
(一) 日時 昭和六二年七月二一日午後三時頃
(二) 場所 大阪市南区南船場二丁目六番二三号先交差点路上
(三) 加害車 反訴被告山下厳男(以下「反訴被告山下」という。)運転の普通貨物自動車(ニツサンホーミー、登録番号なにわ一一さ六五五二号)
(四) 被害車 反訴原告所有かつ運転の普通乗用自動車(ジヤガー、登録番号なにわ三三す八二二三号)
(五) 態様 加害車が右交差点を左折しようとした際、その左側面を道路左側に駐車中の被害車右前側部に接触させた。
2 責任原因
(一) 使用者責任
反訴被告片山製袋株式会社(以下「反訴被告会社」という。)は、反訴被告山下を雇用し、同人が反訴被告会社の業務の執行として加害車を運転中、後記過失により、本件事故を発生させたものであるから、民法七一五条一項の使用者責任に基づき、本件事故によつて生じた反訴原告の損害を賠償すべき義務を負う。
(二) 不法行為責任
反訴被告山下は、加害車を運転中、交差点を左折するに際して左側を注視しなかつた過失により、本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条の不法行為責任に基づき、本件事故によつて生じた反訴原告の損害を賠償すべき義務を負う。
3 損害
被害車は、本件事故により、(一)のとおりの損傷を受けたため、反訴原告は、(二)以下に述べるとおりの損害を被つた。
(一) 被害車の損傷
(1) 右前側部の凹み、フエンダーの破損、前部バンパーの凹み及び擦過痕
(2) スポイラー右側の亀裂
(3) 右側フロントドアが約二〇度程度しか開かなくなる。
(4) 前輪に強い圧迫が加わつたため、走行中のハンドルにブレが生じた。
(二) 修理費及び格落ち損 二五〇万円
但し、一七四万九〇〇〇円の修理費及び反訴原告が被害車を売却した昭和六二年一一月当時の被害車の時価四五〇万円の二〇パーセントである九〇万円の格落ち損の合計額二六四万九〇〇〇円の内金
(三) 代車費用 二一〇万円
但し、昭和六二年七月二六日から同年九月三〇日までの間、当初の六日間は一日五万円、その後は一か月九〇万円の割合によるメルセデスベンツの代車費用
(四) 損害額合計 四六〇万円
4 反訴請求
よつて請求の趣旨記載のとおりの判決(但し、遅延損害金は本件事故発生の日の翌日である昭和六二年七月二二日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による。)を求める
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の(一)ないし(五)は認める。
2 同2の(一)及び(二)は認める。
3 同3の内、(一)の(1)は認めるが、その余は全部否認する。
被害車は昭和五七年二月に登録され、本件事故時までに既に五年を経過した車両であつて、経年的な減価が生じており、しかも修理により復元が可能なのであるから、格落ち損は生じない。また、代車費用については、代車期間は一〇日で十分であり、反訴原告には信義則上損害の拡大を最小限度に押さえるべき義務があるから、通常のレンタカー料金を限度とすべきである。
第三証拠
本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 交通事故の発生
請求原因1の(一)ないし(五)の事実は、当事者間に争いがない。
二 責任原因
請求原因2の(一)及び(二)の事実は、当事者間に争いがない。
三 損害
1 被害車の損傷
請求原因3の(一)の内、(1)の事実については当事者間に争いがなく、(2)ないし(4)の事実については争いがあるので、これにつき検討するに、成立に争いのない乙第一号証、証人西和雄の証言及びこれにより真正な成立が認められる甲第三号証、いずれも昭和六二年七月二二日住友海上火災保険株式会社の担当者が被害車を撮影した写真であることにつき争いがない検甲第一号証の一ないし七、いずれも右同日右担当者が加害車を撮影した写真であることにつき争いがない検甲第二号証の一ないし六、並びに証人佐藤陽三、同大廣一夫の各証言、反訴原告の本人尋問の結果によれば、本件事故は、前記の事故の態様のとおりに発生し、被害車は右斜め後ろの方向から左斜め前の方向へ入力を受け、右フロントフエンダーのサイドマーカーランプの前が凹損するなどの損傷を受けたほか、本件事故後右バンパーの下のスポイラー部分に亀裂が認められたこと、加害車には左側の中央部から後部に凹損が認められるとともに、その部分に被害車の紺色の塗料などが付着していたことが認められる。
反訴原告は、その本人尋問の中で、被害車のスポイラー右側の亀裂は本件事故により生じたものであり、その上本件事故により被害車の右前ドアが十分に開かなくなり、走行中のハンドル操作の際ブレが出るようになつたと供述するが、証人佐藤陽三の証言によれば、同証人が昭和六二年七月二二日に被害車の写真を撮影した時には、そのドアの開閉に支障がなかつたこと、反訴原告は、本件事故後の右同日や同月二四日にも被害車を運転していたが、その時にはハンドルのブレを訴えてはいなかつたことが認められる上、前記認定の事故態様に鑑みれば、バンパー下部のスポイラーやドアの部分などにまで損傷を生ぜしめるような強い衝撃が波及したものとは考えにくいことから、反訴原告の右供述はにわかに信用し難い。
従つて、本件事故により、被害車に請求原因3の(一)の(2)ないし(4)の損傷が生じたものとは認められない。
2 修理費及び格落ち損 四一万三九〇〇円
まず修理費につき判断するに、前掲乙第一号証によれば、ジヤガージヤパン株式会社は昭和六二年七月二三日被害車の修理費を一七四万九二〇〇円と見積もつていることが認められるが、証人大廣一夫の証言によれば、右見積もりには右側の前及び後ろドアやスポイラーに関する修理が含まれているほか、反訴原告の希望により全部塗装を前提としていることが認められるから、右見積もり額を本件事故によつて反訴原告が被つた損害とみることは相当でない。一方、前掲甲第三号証並びに証人西和雄の証言によれば、保険会社の技術アジヤスターである同証人は、被害車の修理内容としてフロントバンパーの取り替え、ボンネットフードの調整、右フロントフエンダーの取り替え、部分塗装を前提として、その修理費を三四万三九〇〇円と見積もつていることが認められるが、前記認定の被害車の損傷状況に照らせば、右見積もり額を反訴被告らが負担すべき修理費とみるのが相当である。
次に格落ち損につき判断するに、前掲甲第三号証、成立に争いのない乙第三号証、弁論の全趣旨により真正な成立が認められる乙第二号証、反訴原告の本人尋問の結果及びこれにより真正な成立が認められる乙第六号証によれば、被害車は昭和五七年二月初度登録の五人乗り、排気量四二二〇CCのジヤガーであり、反訴原告は昭和六一年一一月これを六〇〇万円で購入し、本件事故後の昭和六二年一一月に修理をしないまま二〇〇万円で第三者に売却していることが認められるが、右売却額をもつてその時点での被害車の適正な時価とみることはできないところ、他に被害車の修理後の格落ち損に関する証拠がない以上、その損害額は、経験則上前記認定の修理費の約二割に相当する七万円程度と推認されるにとどまるものというべきである。
そうすると、被害車の修理費と格落ち損の合計額は四一万円三九〇〇円となる。
3 代車費用 一八万六五〇〇円
反訴原告の本人尋問の結果及びこれにより真正な成立が認められる乙第四、第五号証、第七、第八号証、並びに弁論の全趣旨によれば、反訴原告は、不動産、建築関係の業務を営む大翔産業株式会社の代表取締役として、電話付きの被害車をその営業活動に利用していたところ、本件事故後の昭和六二年七月二六日から同年九月三〇日まで被害車の代車として七八年式ベンツを借り受け、被害車の電話を右代車に設置して使用し、その費用として合計二一〇万円を支払つたことが認められるが、被害車の代車として右ベンツを使用する必要性は認められない上、前掲甲第三号証、成立に争いのない乙第一〇号証、並びに証人西和雄の証言によれば、前記認定の本件事故による損傷部分に対する修理に要する期間としては、一〇日間で十分であり、その間個人がレンタカー会社から電話付きのフアーストクラスのレンタカーを借りる場合には、当初の二日間で四万一七〇〇円、その後の八日間は一日につき一万八一〇〇円の割合により、合計で一八万六五〇〇円のレンタカー料を必要とすることが認められるから、本件事故による被害車の代車費用は、右レンタカー料の限度にとどまるものとみるのが相当である。
4 損害額合計 六〇万〇四〇〇円
四 結論
以上の次第で、反訴被告らは各自、反訴原告に対し、六〇万〇四〇〇円及びこれに対する本件事故発生の日の翌日である昭和六二年七月二二日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、反訴原告の請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 細井正弘)